B班第1回研究会

日時:10月3日(日)・4日(月)

場所:熊本・阿蘇 グリーンピア南阿蘇


1. 対話文理解のためのシソーラスの構築  --国語辞典を利用したシソーラスの作成--

    鶴丸弘昭 (長崎大学)

対話文理解システムを作るためには,一般的知識(常識)や文脈情報な どが必要となる.しかし,常識といってもそれがどのようなものであ るかは必ずしも明らかではない.本研究は,常識の近似モデルの一つ と考えられる,上位/下位,部分/全体関係などに基づくシソーラス の構成法について検討し,対話文で多用される省略表現や代名詞の補 完などへのシソーラスの応用を目指すものである.本稿では,(1)対 話文理解とシソーラス,(2)シソーラス作成の基本的立場,について 概説し, (3)大量の語彙常識が含まれている国語辞典を利用したシソー ラスの構成法について,これまでの研究成果に基づいて詳しく述べ, さらに,(4)今後の研究方針についても簡単に言及する.


2. 日本語の使役の語彙的扱いについて

    郡司隆男 (大阪大学)

本論文では,日本語の使役文,受身文などに関して,Dowty (to appear) の提案するような,tecto / pheno-grammatical な区別をたて ることにより,統語的構造と形態的特徴とを統合的に分析する可能性 を調査する。使役に関する語彙的な分析と非語彙的な分析をまず振り かえり,後にそれらを統合する方法を提案する.形態的な情報と構成 素構造に関する情報(統語的・意味的情報)とは,HPSG のような, 素性構造および制約に基づく文法理論の中で統一的に扱うことができ る.この枠組では,形態的な付加によって音韻的・形態的な情報が正 しく扱われる一方,下位範疇化や量化の情報などの,統語的・意味的 な情報も階層的な構造の中で正しく表現することができる.


3. 対話文の深層構造の生成に向けて

    岡田直之 吉田大輔 (九州工業大学)

言語は,人の心から生成されるが,そのメカニズムは明かでない.本 稿では,生成過程を大きく,非言語的な心理活動から言語の深層構造 の得られる”心理”過程と,深層構造から表層構造の得られる”言語” 過程とに分け,前者について述べる.心は,”モジュール”と呼ばれ る単位的なプログラム/データ(ミンスキーのAGENTに相当)が数多 く集まって機能すると考え,それらの活性化連鎖で一連の状況を把握 し,言語化する.特に,情緒部分を詳しく述べると共に,独り言から 対話に向けての課題を考察する.


4. 対話システムにおける結束性について

    田村直良 (横浜国立大学)

本報告では,対話の各時点における結束性について検討し,対話シス テムや応答文の生成方式についても触れる.対象の理解にはいろいろ な観点に基づく捉え方があることから,多重構造上の推論モデルを提 案する.このモデルにおける各種意味構造は,対話の各段階における 結束性をもたらすものである.いくつかの構造について解析メカニズ ムを検討し,これらの意味構造に基づく文生成プランニング,対話シ ステムの実現について述べる.


5. 語彙結束性を考慮した語義曖昧性解消

    奥村学 本田岳夫 (北陸先端科学技術大学院大学)

本研究では,談話の「つながり」を明示する表層的な情報である語彙 結束性を用いた語義曖昧性解消手法について述べる.語彙結束性を表 す語彙連鎖は,談話中の互いに関連する単語の連鎖であり,談話セグ メントの境界を示す指標として,また,意味解析時における文脈情報 として利用できる.本研究では,語彙連鎖を漸進的に生成する過程で, 語彙連鎖を疑似スタック状に管理することで,語彙連鎖を構成する単 語の語義曖昧性を,語彙連鎖生成と同時に解消する枠組を示す.疑似 スタックは,生成中の語彙連鎖の順序を,最近更新された語彙連鎖が 上位に来るように制御するものであり,スタックの上位にある語彙連 鎖から順に,現在解析中の単語との結束性を調べることで,その単語 の近傍の文脈情報を得ることができるので,この文脈情報を用いた語 義曖昧性解消が実現できる.


6. 音声対話における自由発話の理解

    斎藤博昭 (慶應義塾大学)

自由発話の理解においては発声の明瞭性が失われるだけでなく,省略, 非文,「えー」等の冗長語の扱い,言い直し,言いよどみ等の新たな 問題が生じてくる.エラー対応型汎用LR構文解析法を用い,小さな誤 りは直し大きな誤りはダミーの非終端記号を割り当てることで,確か に認識できる部位とそうでない部位をはっきり区別しつつ解析を進め る.以上の統語的解析と並行して意味解析も行い,発話の意味を抽出 する.さらに未知語の処理を行い,発見された未知語を逐次システム に組み入れる.システム構築に際しては対話型という点を利用し,不 明確な部位についてはシステム側が無理に判断するのではなく,話者 にインタラクティヴに尋ねるといった柔軟な機構をもたせている.