A班研究会

日時:9月10日(土)

場所:早稲田大学理工学部

対話データのデータ収集  榑松 明 (電気通信大)

複文における因果性と視点の係わり  中川裕志 (横浜国大)

自律移動ロボットの発話動機  安西祐一郎 (慶応大)

談話管理理論からみた日本語の提題表現  田窪行則 (九州大)

大学周辺の日常生活における音声対話データの収集と分析(1) --大学図書館の場合--  壇辻正剛 (関西大)

対話データの収集方法と発話形態  白井克彦 (早稲田大)


1. 音声対話データベースにおけるデータ収集

榑松明 (電気通信大学)

話し言葉による音声対話システムや音声翻訳システムを実現するには、 いわゆるロバストな音声認識や言語処理が必須である。このため、人 間が話す音声や言語の基礎的研究のベースとなる自由発話のデータベー スが重要である。自由発話の話し言葉のデータベースを構築するため の考慮すべき点を、出現単語の種類、言語表現、対話のタスクの選定、 機械と人間あるいは人間と人間の話し方、話者について考察する。二 人の話者が都合のよいスケジュールをきめるというスケジューリング タスクをとりあげて、音声対話データベースの収集方法で考慮する点 をのべる。データベースに情報をいかに付与するかというタギングに 関して、主として、書き起こしテキストの表記と音声対話のための辞 書定義をとりあげる。スケジューリングタスクにおける自由発話音声 対話データのいくつかについて、観察した結果を定性的にのべる。


2. 複文における視点と因果性の係わり

中川裕志 (横浜国立大学)

本年度は昨年度の研究を拡張し、因果性を表す複文において授受(補 助)動詞など視点に関連する表現が現れる場合について検討する。昨 年は、従属節で記述される状況を経験したり観察したりして主節で記 述される動作を行なう動機を持つ人物「動機保持者」を導入した。こ の動機保持者を利用する因果性の分析から生ずる読みと、視点に関連 する制約との間の関係を明らかにすることが本年度の目標である。具 体的には、ここで分析してみようとする言語現象は次のようなもので ある。
(1)花子は、暑かったので、窓を開けた。
(2)花子は、暑がったので、窓を開けた。
(1)では、「暑かった」のも「窓を開けた」のも同一人物「花子」と 読めるのに、(2)では、「暑がった」のは「花子」ではないように読 めるが、これはなぜか。さらに、
(3)花子は、苦しかったのに、薬を飲ませてもらえなかった。
(4)花子は、苦しがったのに、薬を飲ませてもらえなかった。
では、対(1)(2)と同じように、「かった」と「がった」の違いはある のに、今度はどちらの文も、主節の主語と従属節の主語が一致して 「花子」と読めるが、これはどう説明したらよいのか。このような問 題を、以下の各節で、因果性、視点などを利用し分析していく。具体 的な方策としては、因果性に基づく分析、常識知識に基づく分析と、 「やる」「くれる」などの視点に基づく制約の間の優先度の問題とし て捉える方法で直観的読みを説明した。最後に、このような文の読み を自動的に作り出す計算機処理の可能性などについても触れた。


3. 自律移動ロボットの発話動機

安西祐一郎 (慶應義塾大学)

本研究室では自律移動ロボットを用いて、人間と自律移動エージェン トのインタラクションについての研究を行っている。そのなかで、非 音声情報を統合した音声対話処理のためのメンタルな場のモデルとし て、注意機構を導入したヒューマンロボットインターフェイスを提案 する。これにより音声対話研究において最も重要な課題の一つと考え られる、対話意味の曖昧性を説明するメンタルモデルの構成過程を明 らかにする。本研究では、非音声情報を獲得するセンサを装備したロ ボット上に対話システムの構築を行なう。ロボットの持つセンサを用 いて対話意味の曖昧性を解消する音声対話システムとして、昨年度に 作成したマルチエンティティモデルで構成される注意機構を対話シス テムに発展させ、自律移動ロボットAspire上に実装する。


4. 談話管理理論からみた日本語の提題表現

有田節子 田窪行則 (九州大学)

対話的談話を知識データベースの更新操作とみて、言語の運用モデル を構成しようとする試みである談話管理理論の立場から、「は」など の日本語提題表現の分析を行った。言語表現は、知識ベースにおける 情報データの構成に関わるものと、情報の入出力、登録、検索、推論、 コピー、編集いった操作やその制御の心的モニターに関わるものに大 きく分けることができる。提題形式は、そのどちらにも関わるもので あるが、従来は、それぞれの分野で独立に研究されており、両者の関 係は明らかにされてこなかった。 本稿では、提題の「は」に結びつ いている心的操作を、操作されるべき「ファイル」の検索指令とする ことで、「は」のもつ提題形式の持つデータ構成的な側面と、操作的 側面とを同時に説明することを試みた。


5. 大学周辺の日常生活における音声対話データの収集と分析(1)
--大学図書館(図書室)の場合--

壇辻正剛 (関西大学)

本年度の研究項目の一つに目的指向のタスク設定の研究が挙げられる。 これは、人間と機械の音声対話の実現を目指して、目的指向型の対話 の研究を行うものである。パイロットスタディとして、留学生の大学 周辺での日常生活という目的指向のタスクを設定して、日常会話で使 われる音声言語の習得を目的としたシステムの構築の検討を始めた。 その基礎研究として、大学周辺の日常生活における、実場面での音声 対話データの収集と分析が必要になってくる。本稿では大学図書館 (室)での音声対話データの実例の録音収集について報告したいと思う。


6. 対話データの収集方法と発話形態

中里収 白井克彦 (早稲田大学)

本研究では、カーナビゲーションをタスクとした音声対話システムを 用いて模擬対話実験を行ない、2群に分けた被験者の言語運用の形態 を調べた。被験者の2群は実験のタスクは全く同じであるが教示だけ が異なっている。ひとつの群には音声対話システムと対話すると教示 し、陰で人間が操作していることがわからないように配慮した(対シ ステム群)。もう一方の群にはコンピューターを通じて、人と対話す ることによってタスクを行なうようにと教示した(対人間群)。対シ ステム群では、明瞭な発声で、丁寧な言い回しが目立った。対人間群 には、イントネーションを用いた強調、複雑な指示、システムに関す る質問などが見られ、全体的には表現の形態が多様であった。定量的 にみると、対人間群では、1)不要語がおおくなり、2)発話前のポー ズは短く、3)不完全な文を発話することが多かった。また、これら の対話データは実験の環境やタスクに依存するので、タスクを変えた 時の対話データとの比較についても考察した。