C班 第1回研究会

日時: 1995年10月2日(月)・3日(火)

場所: 大分 由布院・榎木屋旅館

談話の構造による制約の一考察 白井英俊 (中京大)

対話音声認識のための発話動機のモデル化 山下洋一 (阪大) 池田良忠 野村康雄 (関大) 溝口理一郎 (阪大)

情報検索におけるフレンドリーな応答について 高野敦子 角所考 馬場口登 北橋忠宏 (阪大)

Lessons to Learn from the Artificial Intelligence Approaches to Speech Understanding of the 1970s Nigel Ward (東大)

問題解決過程における対話の文脈処理 遠藤勉 大城英裕 賀川経夫 (大分大)


1. 状況意味論と語用論に基づく対話理解
-- 談話の構造による制約の一考察 --

白井英俊 (中京大)

状況意味論に基づいた対話のモデルを考察する。本稿では、まず対話 を状況理論の枠組から定式化する。従来の状況意味論が対象として来 た単純な発話のモデルに比べて以下のような点を考慮しなければなら ない。すなわち、対話では、話し手が交替する、話し手と聞き手の間 にコミュニケーションについての一定の制約が存在する、話し手と聞 き手の間にメタ言語的な情報のやりとりが存在し、そのいくつかは言 語化される、というような特徴がある。また、同じ状況について記述 する発話であっても、それぞれ独立した文の発話ではなく、会話とし てまとまったものであることが要求されることに注目し、それを制約 として定式化を試みた。


2. 対話音声認識のための発話動機のモデル化

山下洋一 溝口理一郎 (大阪大学) 池田良忠 野村康雄 (関西大学)

対話音声を認識するための発話予測という観点から、目的思考対話に おける発話の動機について考察する。まず、個々の発話の動機が二つ の異なるレベルの動機、すなわち情報伝達レベルの動機と問題解決レ ベルの動機から構成されるとする発話の動機モデルを考え、次発話の 話題の予測実験を行った。発話の動機に基づいた話題の予測では、話 題遷移だけを使った予測に比べて、正解話題を予測話題として数え上 げることができる割合が増えた。しかし、特に対話が進行するにつれ て、予測される話題の数が増加し、音声認識のための制約という観点 からは、語彙の絞り込みが弱くなってしまったと思われる。また、発 話の動機を 1.まだ授受されていない対話領域の情報に関する動機、 2. 問題解決に関する動機、3. 情報授受に関する動機の観点から、動 機に分類を再考した。


3. 情報検索におけるフレンドリーな応答について

高野敦子 角所考 馬場口登 北橋忠宏 (大阪大学)

一般のユーザが電子化された大量の情報の中から明確な目的を持たず に気軽に情報を検索する機会が増加するのに伴って,その際の自然言 語によるユーザフレンドりーなインタフェースの必要性が高まってき た,その場合の対話は,従来対話研究が扱ってきたタスク遂行型の対 話とは異なり,プランーゴールに基づく手法では扱うことができない. ここで,システムに求められるのは,明確な目的を持たず,情報検索 の過程で必要な情報を絞り込んでいこうとするユーザに対して発想支 援を行なう応答であり,大局的な一貫性よりも局所的な自然さや協調 性を実現する対話管理である.我々は既に,システムが大局的なプラ ンーゴール知識を持たない場合を含んだ一般的対話を対象として,局 所的な連結性に焦点をあてた協調的な応答生成手法について研究を進 めてきた.本研究は,それに基づき,ユーザの発想支援を積極的に図 る応答を実現する対話モデルについて検討する.ここでは,プランの 替わりにユーザの興味・関心によって応答生成を制御する.本稿では, その事例研究として,献立(お菓子)データベース検索を取り上げる.


4. Second Thoughts on an Artificial Intelligence Approach to Speech Understanding

Nigel Ward (東京大学)

This paper discusses some methodological issues in speech understanding research, as they arose during an attempt to build an AI-inspired understander for speech. The system developed, although technically interesting, was a failure as a prototype for future speech understanding systems. The problem was poor choice of goals. The goals were: be optimal in principle, be well integrated, deal directly with noisy inputs, iteratively refine the interpretation, be linguistically interesting, have visualizable hypotheses, be tunable by hand, have an innovative architecture, and relate to general issues in AI. This paper explains why these goals originally seemed worthwhile, and then why they came to seem unimportant. It also relates these issues to 1970s AI approaches to speech understanding and to the approaches of today's speech community. It concludes with a general comment on the classic AI paradigm.


5. 教師との対話とドリルテキストの相互参照に基づく初等数学の 問題解決に関する研究
-- 問題解決過程における対話の文脈処理 --

遠藤勉 大城英裕 賀川経夫 (大分大学)

対象を小学校1年の算数の世界に絞り込み,問題文と図表が混在して いるドリルテキストならびに教師(人間)との対話を相互参照しながら 算数の問題解決を行なうシステムの開発を進めている.本発表では, 問題解決過程におけるシステムと教師との対話の文脈処理について報 告する.まず,文脈を言語表現が使用され,評価される言語的・非言 語的環境であると定義し,発話文の構造と発話意図,発話のおかれた 状況(話し手,聞き手,場所,時,現場の事物),領域知識および話し 手の注意状態をその構成要素とした.次に,文脈情報に基づく対話処 理方式を提案する.特に,システムからの発話文の生成では,問題解 決過程ならびに文脈情報からの言語情報の抽出と修辞処理について, 教師からの応答文の解析では,発話意図や省略要素の推定,発話中の 言語表現と文脈情報の対応付け,焦点情報の設定などについて述べる.